基本的に流行についていけないんで、
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ラグナロクオンラインでの奮闘などを書いていくよ!

2009年09月03日

短編:早き秋風殺伐の夜

 立秋も過ぎた夏の盛り。美しい三日月の輝く夜に、一人の少年が薄暗い道を自転車で走っていた。異常気象なんだろうか、と彼は思っている。夜風は涼しすぎて、いや、むしろ冷たくて寒いほどである。まるで冬に聞く怪談話のよう。
 物心がついた時から彼は悟っていた。自分は世の中の小さな小さな存在に過ぎないのであると。夜空を見上げるとたくさんの星があって、ああ、ここから見ることができる星と地球に住んでいる人はどっちが多いのだろう、なんて考えている。

 望みの数だけ悲しみがある。

 死んだ祖父がよく言っていた。
 自分の為にだけ生きる人間もいるのかもしれない。人間とは結局のところそういう生き物なのである、という考え方もないこともない。誰かの為なんていうのはただの口実であったり、そうじゃないのであるなら自分に返ってくるものを期待しているのである、と。
 でも、と彼は思う。たとえ偽善であったとしても、何もしないよりも良いんじゃないのだろうか、と。それで誰かが助かるのなら、救われるのであれば、その行為は間違いなんかじゃないのではないのだろうか。
 そして、誰かの為に、と動いている人たちを、自分さえ満足な余裕もない人々が誰かを救おうとするその行動を、間違いだなんて思いたくない。

 できるだけ自分もそうありたい、と彼は思っている。
 余裕なんてこれっぽっちもない。できることなんて限られている。知識も経験も技術も、財産も地位も名誉ももちろんない。
 価値のある誰かになんてなれなくて、ずっともがき続けてきた。この歳にもなれば、限界だって知れているんだろう。
 もちろん、自分の為にである。

 しかし、この世は一つの世界である。

 自分の為であることが、誰かの為にならないことだってない。自分の足で立てない人は誰かに背負ってもらわないといけないだろう。

 天井が近づいてきたとしても、誰かの為である自分の為に、その天井を押し上げる。自分を大切にできないなんて駄目だ。それは周りの人のことを考えていないということなのである。

 でも、とも彼は思う。
 果たしてそれは本当に正しいのであるのか、と。

 誰かの為に、という気持ちを否定するつもりはないのだけれど、そうやって自分の為に進むことが本当に間違っていないのだろうか、と。

 『望みの数だけ悲しみがある』

 勝ち続けることに本当に価値があるのだろうか、と。

 一番になれないことはわかっている。オンリーワンだって難しいんじゃないだろうか。
 自分には無理だと理解してもなお、その限界に挑み続ける。その果てに何もなかったとしても、それは、

 それだけ頑張った人間を、誰がどうして笑えるのだろう。

 笑われても構わない。ただ、自分以外の誰かが笑われることを許容できない。

 自然と自転車を漕ぐ速さは上がっていた。ギアはトップに入って、トルクも落ちていない。最初で最後の坂道を一気に上り詰める。

 わかっている。わかっているのである。そんな理想で生きても良いのはせいぜい小学生くらいまでなのである。

 あまりにも無力。

 守るべきものに守られず、責められる未来。それは想像も希望も絶するのかもしれない。

 坂を下る。上りよりも傾斜の低い坂をトップスピードのまま駆け抜ける。

 隣には公園がある。

 彼は見てしまった。
 口を押さえられて、後ろから●されている女性。

 男はナイフを背中に突きつけている。

 ただでさえ強く打っていた心臓が、爆発するかと思う。

 自転車を公園の外で蹴り飛ばし、そっちの方へと駆ける。

「何してやがるんだ、てめぇーーーー!」

 何も考えられなかった。

「あぁ?」

 男は女を弾き飛ばすと、少年の伸びている右腕を持っていたナイフで斬りつけた。

「ぐぎっ」
「はっ、少し浅かったか?もうちょっとだな」
「づ……ぅ……」

 激痛に声が出ない。

「あー、良いところだったのによ。塾帰りのガリが調子乗ってんじゃねぇぞ」

 蹲ったまま、右手の出血を抑え、男を睨みつける。

「あー、良い目だ。そういうのを見ると、こう、ポキッと折って、ぷちっと潰して、殺してやりたくなる」

 こいつは駄目だ。
 色々な意味で駄目だ。
 少年は自分と相手の体力と運動能力の格の違いを理解して、自らの命の危険まで察知していた。

「くく、こいつは女よりも面白れぇかもしれねぇな。死なない程度に遊んでやるよ」

 女性は震えたままこちらを見ている。
 それでも、彼女が助かるなら。

 *

「あー、わかったよ。てめぇの勝ちだ」

 三十分は殴られ続けた。

「正義の味方様の勝ちだよ。どこまで立つのか試したかったが、てめぇは死んでも立ちそうだ」

 満身創痍の体で立ち上がる。
 出血が酷いのは最初に斬られた傷だけ。
 プロボクサーのように華麗なストレートはもう飛んで来なかった。

「つまらねぇ」

 男はそう言うと、側に止めてあったバイクに乗って去っていった。

 ……良かった。

 歩くこともままならなさそうで、意識が落ちそうな中、

「男なんて、だから男なんてみんな死んだ方が良いのよ!」

 右脇腹に、激痛が走っていた。

 最後に見たのは、《男が置いていったナイフ》。
 ……正義のイス取りゲームには勝ったのである。

 しかし、少年は報われない。
 彼女の為に、と耐え続けた彼だったが、彼女はそれを望んでいなかったのかもしれない。
 二箇所の出血は酷い。直に丑三つ時となる。人気はなく、発見される可能性は低いだろう。

「あ、あたし、なんてこと……」

 女性は服装を整えながら、怯えてその場を立ち去る。

 空まで凍りそうな風の吹く夏の夜。
 一人の少年が勝利し、敗北した。


posted by Actor at 07:44| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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